借金をチャラにする

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 斉国「馮ケン」と言う人はとても貧乏だった。そこで人を介して斉国の首相である「孟嘗君」食客になりたいと願い出た。

 孟嘗君;「貴方は何を好むか?」
 馮ケン;「何も好みません」

 孟嘗君;「貴方は何ができますか?」
 馮ケン;「何もできません」

 孟嘗君は笑いながら「よろしい」と言って3000人いると言う食客の一人に加えた。側に仕えるものはつまらぬ奴だと「菜メシ」の膳を与えた。

 日が経ってある日、彼は柱にもたれ、剣を叩き;「長剣よ帰ろうか、膳にがつかないもの」と歌った。側の者が孟嘗君にこの事を告げると;「魚を食わせてやれ」と言った。

 また日が経ってある日、彼は剣を叩きながら;「長剣よ帰ろうか、外出するにもがないもの」と歌った。側の者が孟嘗君にこの事を告げると;「車を与えてやれ」と言った。

 彼は車に乗り、友人たちを訪ね歩き、わしは孟嘗君の食客だと言って回った。

 また日が経ってある日;「長剣よ帰ろうか、一家そろって住めないもの」と歌った。側の者が孟嘗君にこの事を告げると;「親の分までの食い扶持を与えよ」と命じた。

 また日が経ってある日、孟嘗君は誰か「薛」(セツ)の町へ言って百姓達の借金を取り立ててきてくれる者はいないか?と布告を出した。すると、例の「馮ケン」が;「私が行ってまいります」と答えた。

 孟嘗君は大喜びで辞を低くし彼に託した。、彼は借金証書の束を預かり車に乗り、いとまごいをして言った。

 馮ケン;「借金をすべて取り終わりましたら、何を買って帰りまいりましょうか?」
 孟嘗君;「私の家にあまり無いものをみつくろってきてくれ」

 「薛」に着くと百姓たちを集め、彼の持ってきた証文と百姓の持っている証文がすべてピッタリ一致したので、孟嘗君の命だと偽って;「借金をチャラにする」と言って証文を焼き捨てた。百姓達は「万歳、万歳」と大喜びだった。

 彼はすぐに道をとって返し孟嘗君に目通りした。

 孟嘗君:「えらい早いじゃないか?借金はすべて取れたか?」
 馮ケン;「はい、取れました」

 孟嘗君;「で、何を買ってきましたか?」
 馮ケン;「わが君の家には何でもあります。でもあまり無いものと言えばまず「義」でしょう。そこでわが君のために「義」を買ってきました。

 孟嘗君;「どうしてそんなものを?」
 馮ケン;「ご主君は「薛」というご領地の百姓たちをわが子のように慈しみなさらずに、まるで商人のように彼等を利用して利をお稼ぎになります。私は主君の命であると偽って証文を焼き、借金は皆への贈り物であると申しました。これが「義」を買ったことになります。

 孟嘗君はそれを聞くと嫌な顔をして以後彼を遠ざけた。

 一年経ってあらぬ容疑で孟嘗君をそしるものがあり、「斉王」は孟嘗君を首相の地位から追い出した。故郷の「薛」の領地に帰国することになり、まだ百里も行かないうちに百姓達は沿道に出て万歳万歳と叫び、熱烈歓迎したのだった。

 孟嘗君は「馮ケン」を振り返り、「義」を買って下さったことにとても感謝しましたと語った。

 なお、孟嘗君はの三国の首相をつとめた名宰相として知られる。又、「馮ケン」は孟嘗君の食客3000人の中でも筆頭格で上記の故事は「薛国市義」として世に知られている。

{戦国策 斉策}より  画像は証文を焼いている情景(華語広播)より
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